まっくろくろすけ


もうすっかり葉っぱが枯れ落ちた冬。

ポプラ並木やリンゴ園などで
こういう木を見かけることがあります。


スイスに来てはじめての冬
電車に乗っていてこのまっくろくろすけたちを見かけたときは

木のコブ?
それが枯れてスカスカになってるの?

もしくは鳥の巣?
えええ、密集しすぎてやしませんか?

と、とっても不思議に思い
『歩く生物百科事典』と、家庭内外で呼ばれる旦那をつかまえて
「あれは、なんじゃい」と聞いてみると
難なく教えてくれました。


まっくろくろすけがさささーっと登っていったようですが
この丸くぽわぽわして見えるのはれっきとした植物。

木に寄生して生きる、ヤドリギ Viscum album です。

鳥がヤドリギの果実を食べ
その種を糞と一緒に空から落とすことで
樹上に根を生やし繁殖していく寄生植物なんだそうな。


かつてヨーロッパ各地では薬として重宝され
いまも腫瘍などの治療薬に使われているそうですが

なにより、冬でも緑の葉っぱをつやつやと茂らせている様子が
生命力の象徴のように考えられたのか
冬のお祭りには欠かせない存在でした。

だんだん時代がさがってくると
クリスマスの飾りとして定着し
いまも軒先なんかにぽわんとまるい緑色のヤドリギが
赤いリボンと共に吊り下げられていたり
クリスマスツリーのオーナメントにヤドリギ型のものがあったり。

昔むかしには、このヤドリギの下で会ったら
たとえ戦さの敵同士であっても争いを止め
互いにキスをして仲直りをするという言い伝えがあって

いまではそれが発展して
ヤドリギの下にいる男女はキスをしなきゃいけないだのなんだの
やたら色っぽいことになっていますが

もとは和平の象徴だったのです。。


ちなみに私は
故郷の小さな町に老舗の酒屋さんがあり
マンガ「夏子の酒」はいつ読んでも号泣!な人間のためか

その、クリスマスシーズン中に
軒下に緑のヤドリギが吊り下がっている光景を見るたび
新酒がでる時期に酒屋の軒先に吊り下げられる杉玉を
どうしてもどうしても思い出してしまい

ホームシックのような
のんべであったためしはないのに何故かのんべな過去を
ほろにがく振り返るような

なんとも言えない気分になります。


私自身は見たことがありませんでしたが
ヤドリギは日本各地でも見られるそうですから
みなさんのご近所にもあるかもしれません。

もしもその下でどなたかと会ったらなら
戦いは置いておいて、キス。

まず、キスです。